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講義抄録:片品生活塾を通して―田舎暮らしは信念を持って

桐山三智子さん

昨年の講義に続いて2年連続の今年。桐山さんの講義は、この一年で変わったこと、発展したこと、思いがけない体験などを中心に、片品生活塾をめぐって、農と食の手作り生活を通して、暮らすこと、生きることの意味、充実を教えていただいた。

自然農をめざして

自分の生活から変えなくてはだめ。有機肥料も農薬も使わず、土の力だけでつくる農業をめざして、この村でやっている人の農業をやろうとは思わなかった、と、始めた片品村での生活も丸5年を経て。

まず、自分が食べるのが第一。自分とか、孫とか、いちばん大事なのは家族。みんなでおいしく食べるのが大事じゃないか、という信念で片品生活を始めた桐山さんの、淡々とした振る舞いの中に根付いている、"これまで"。

東京・代々木公園の朝市「アースデーマーケット」への参加も今年は2年目で、東京の人も野菜や農業に興味のある人が増えているそうだ。朝市には炭アクセサリーを出店し、ここで出会った若者に「よかったらうちに来ない」と誘って、片品生活塾への受け入れを続けている。

その参加者も彼と二人の生活になってからは、家族連れが多くなり、子連れや年配の人まで、来る人の幅が広がり、また多くなっている。そうした来訪者の増加に、大家さんが築100年の家を開放してくれた。その家の物置状態となっていた2階を、来た人みんなで改築し、寝室にレベルアップ。内装や備品などは来た人たちが勝手にカンパし、無いものを買ってきたり置いていったりしてくれ、手作りの素敵な寝室ができあがった。

1階は、これから野菜ギャラリーと炭アクセサリーのショップをやりたかったが、毎週人が来てくれて、畑をスコップと素手で開墾している日々に追われている。さらに、一反の畑を有機農業から自然農業に変えるチャレンジをしたが、ぜんぜん野菜が育たなくて、野菜ギャラリーどころなくなった。

獣害に悩まされて

自然農も収穫できるまで、早くて3~10年かかるといわれ、今年は野菜もできず、そのうえ、獣害―鹿、熊、猿―にあった。桐山さんたち余所からきた者は、日当たりの悪い、遊休農地しか借りられず、獣害にあいやすい。今年は初めてサルが出て、大豆は鹿に葉を食べられ、固定種の種を取り寄せてつくったトウモロコシは、熊にやられ、サルにやられ・・・・。そのサルは、猟友会の人と山に入って一人取り残されたとき、ふと気がつくと100匹余りものサルに遠巻きされていた、という恐怖も味わった。

獣害のあまりのひどさに、何日間も口もきけない状態が続き、近所のおばあちゃんもこんなの初めて、と言っていた。

旬の野菜を出すのは大変で、思い通りいかず、金になるものをしたくて、さらに2カ所の開墾をした。そこでは、大豆とニンニクに挑戦。ニンニクは9月末から10月に蒔いて7月に収穫でき、保存もきくので、来訪者と開墾し、そこに種を蒔く予定とか。

若者が病んでいる

来てくれた若者が笑顔で帰っていくのがすごいことで、片品生活塾をやっててよかったと思えるのだが・・。

最近感じるのは、若い子が病んでることだという。

病んでいる子が田舎に来る。接し方に困るのだが、何もしなくとも元気になって、帰って行くのがすごいと、田舎の癒し力を実感されているようだ。

この1年で変わってきた例として、若い子は農村には来ないというが、10人誘ったら半分は来るという。その中に「土と平和」イベントで出会った26歳の男性がいた。

イベントで炭アクセサリーを買って、ゴールデンウィークにいきなり片品にやって来て、桐山さんは、なぜ片品か、なぜ田舎で・・・などなど質問攻めにあった。で、桐谷さんは、家族が大事、食べるのが基本、今のテレビはみんな頭で分かるが、自分は体で感じたい。電気は消えてる方が楽などといったが・・。

その男性は2泊して、味噌造りを手伝い、おばあちゃんと桐山さんは汗だくになったが、彼は汗をかかなかった。なぜだろうと思って聞いたら、朝食は食べず、昼は?「何かな―」、夜は?「・・・・」と覚えておらず、日頃食べることを大事にしてなかった。それが3日間きちんと食べたら「みんなで食べるっておいしいっすよね」と変わり、朝はコーヒーをいれてる桐山さんの彼を見て「教えてください」となり、帰りどきには炭アクセサリーが欲しいといって、女物を選んで「気になる子がいるんで告白しようと思う」と。帰ってからのメールで、その翌日には告白したとの知らせがあった。  自分のことは何も話さず、食事もいいかげんな若者が、食べること、一緒に食べることの楽しさ、大事さを実感し、そして気になる女性に告白するまでに変わった3日間。

また、その彼の仲間たちをグループで迎えたとき、会社社長をし、何でもでき、かっこいい男性が、あなたの一番大事な物はと問われ、「オレは空っぽ」と答えた衝撃。

桐山さんはこんな彼らとディスカッションなどを通して、   食べることは生きることだ、生きることがいいと、単純にやっててよかった、と思った。

先生たちの高齢化が・・・

生活塾の先生は、土地のおじいちゃんやおばあちゃんたち。この人たちが、日に日に弱っている。

5年前に、田舎暮らしをしようと片品に来た。そのときは、村の人が当たり前にしている暮らしを学びたいと思った。それが、おじいちゃん、おばあちゃんの暮らしに学びたいと変わった。というのは、初めは嫁候補として付き合ってくれたが、親密になるとその人は離れていく。が、ずっと変わらない態度で接してくれたのがおじいちゃん、おばあちゃんたちだった。

炭焼き歴70年の須藤おじいちゃん師匠を陰で支える奥さんは、とても尊敬している「かおるばあさん」。81歳。味噌造りしているが大豆は自給。自分の部落で30年前に生活改善グループをつくり、麹からつくっているのを今でも変わらずにやっているのは、かおるさんのところだけ。この味噌造りを3年前に手伝わせてもらい、味噌造りを知った。そのころは"手伝ってあげている"という気分であった。

が、3年たち、目に見えない仕事もあり、気配り心配りもわかり、30年続けてきたことに対して、今はなんて傲慢だったか思い知った。そして今では"手伝わせていただいている"スタンスに変わった。

全国でおばあちゃんの知恵を引き継ごうというにはどうするか。

本当に学ぶことは、「目に見えない心ではないか」

仕事として続けていけるかも知れないが、儲からなくなったら、流行らなくなったらやめちゃうのではなく、心まで引き継いでいかなくては。

ヨソ者としては、どんなに頑張っても引き継げないものがある。かおるさんが言いたいこと、語ることを、手伝わせてもらうことしか、心を引き継ぐことしかできない。

時代背景も知らず、感覚で危機感を感じ、軽いノリで田舎暮らしを始めたが正しかった。あと1年後でも、かおるさんから引き継ぐことはできない。この1年でかおるさんも体力が衰えた。昔からの味噌作りに異議を唱える若手に、初めて逆らわなかった。先生たちの高齢化が身に沁みる。時間がない。

信念を持って、「幸せ組」を増やそう

若い人たちに、今だよ急げ、と言いたいが、これから農業する若者たち、でもどうなんだ。これから始めたい若い人は資源に限りがあり、今までと違うことをやりたいと思っているだろうし、田舎にどんどん飛び込んで、地域に飛び込んで、販路を作り、自分が悪くて地元の人に言われたら、それでもやめられない人でなければできない。

自分の支えは、おじいちゃん、おばあちゃん。5年前、このままじゃまずいぞと思い、野菜をつくり始めた。が、田舎での暮らしには、これでいいと思った信念を貫き通すしかない。自分の信念を信じてやることだ。

若い人が田舎に来て、引き入れて来る人に理解を持って支える人がいると、どんなに心強いかと思う。

勝ち組、負け組ではなく、「幸せ組」を増やしていくことがいいと思うので、幸せ組を増やしていきましょう。

文責・伊藤

日時: 2008年9月21日 00:11
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