講義抄録(11月):つくる暮らしを取り戻す「どっぽ村」プロジェクト
清水陽介さん
滋賀県湖北町ではじめた「上山田どっぽ村プロジェクト」は、生まれも育ちも上山田の「家もつくる農家」の松本茂夫さんと、長浜生まれで湖北町とは町ひとつ隔てた余呉町に住む「米もつくる大工」の清水陽介さんが始めた、自分の手でつくる暮らし、自分の暮らしは自分でつくる技と心と思想の"暮らしの場取り戻し"学校といったらいいのだろうか。
「手は宝」だ。手の能力を高めなくては。家をつくるのは決して難しくない。小さなものから挑戦すれば、自信がもてる。自分でつくれば愛着が持てる。大工任せにしないで、農家任せにしないで、衣食住の食住から、自分の生活を自分でつくる、新たな暮らしを始めよう、と、清水さんの熱っぽい授業は始まりました。
手仕事から農村の取り組みを、頭だけではだめ。
上山田は琵琶湖の北端にあり、北陸と関西をつなぐ、交通の要衝として発達してきた。いま、農村の力は衰えている。大工もメーカーに押されて仕事は少なくなっている。 清水さんは、「エコワークス」を個人の大工としてやっている。これに農業をやっている松本さんが参加して、「どっぽ村」を、07年から始めた。
自分が暮らしのために必要なものとして、建築は手間賃仕事で、他に農業をやっている。サラリーマン体験は10年くらいあるが性にあわない。
循環共生社会
暮らしには多様性があった。今は○か×のような、サラリーマンか否か、金を稼ぐことで推し量る。
- つくる/買う・選ぶ=暮らしの多様性→循環共生社会
で、どっぽ村をつくる
人がつくるほうに移動して、つくるを大きくしたほうが良い。
農業や建築は、地域の首根っこを掴んでいる。いろんなことができる。
自転車の好きな清水さんは、中学・高校時代に自転車でほぼ日本一週をした。高卒後、大工の道に入り、いったん会社に勤めるが、再び自転車で4年かけてインドやヨーロッパ、アフリカなど世界を回ってきた。その経験を経て、一人旅は自分で判断して危機は自分で対処し、のがれるもの。「どっぽ」という言葉にのせて、自分の生き方の形態をつくっていったほうがよいのではないか、と提唱する。
手仕事で覚えたことを伝えれば、それでよい。農業も先人たちが耕した農地を誰かが継いで伝える、それでいいのではないか。大きなことに取り組もうとすると、立ち止まって考えてしまう。
マルかバツでどちらかに属してしまうのでなく、つくる、買う、程度がいい。その真ん中のかぎりなくあるグレーゾーンは職人の生きるスペースだ。大工である自分も、材料を買わなければならない消費者である。つくる人と買う人の両面を行き来している。どっぽ村は、大工を育てる学校でも、農業者を育てる学校でもない。受け皿をつくるから、自分で何とかしてください、という取り組みである。
長浜出身で、余呉町に住んで10年。住み始めて数年後には農業をやりだした。ハサ干し(天日干し)にやってこだわってる。冬はハサ柱が立っている風景がきれいで、美しい風景によく似合う。
あるとき、大学の建築出で大工仕事やったが、倉庫の整備を命じても進まない。杉と檜の見分けがつかない。半年で分かるようになったが、そのようなことは大学で教わってない。頭の知識と、現場の差がつくことを悟った。湖北地方は今、専業が多いが、かつては兼業が多かった。家も建てる農家が9割以上。農業もやる家が9割以上というかんじ。自分の暮らしは自分が手がけるのは、あたりまえだった。
自分が何をしたらいいか分からなくなった時期、たまたま自転車が好きで、日本も走り終え、地球を自転車で1周した。24歳のとき、サハラ砂漠にいた。
われわれの生活がキャパシティを超えるのではないか。どしたらいいのか。わからないまま旅をし続けた。農村の景色が違って見えるのでは。砂漠、白、茶、緑の景色・・・。
自分は旅人。住んでいる人は生活している。環境問題を考えるとき、その人を思いやることを、伝えなくてはならない。 上山田の田んぼと砂漠、どっちが豊かか、どっちにいたいのか。
どっぽ村は変わったおっちゃん2人がいればできる。
どっぽ村はここ(上山田)をよくすることを目的としない。ここでいろんなことが行われて、何を感じてもらうかだ。循環社会をつくることをやってみて、今の社会とどう関連するかやってみる。
どっぽ村には今3人の生徒がいて、来月もう一人来る。給料は月10万円出す。農業法人に属しており春から夏は農業をやり、あとは建築をする。1年目は月に25日働いて、2年目は20日、3年目は15日にして、3年間でできる力がついてくる。給料を上げると毎年2人予定していたが現在は4人なり、増えてくると清水さんたちがパンクしてしまう。続けなくてはならず、そのためには給料を上げず、働く日数を減らして10万円でなんとかしてもらう。3年目に月15日働き、残りの15日は自分で考えて使う。"どっぽ"なのだから。
まだ1年目で不安は残るが、自分たちでやりたい方向性を持ってくれれば、大学で4年間すごしたほどの内容はあろう。家を建てられる能力をつけてほしい。
10年間親元から通うと、300万円くらいたまる。小さな家なら建つ。ローンで人生縛られず、農業もやり、あとはサラリーマンやっても、だまされて3年間過ごしてくれればなんとかなる。生徒もうまく騙されないと行き詰る。
どっぽ村のワークショップ
何もないところに家を建てる準備作業を4日間で終えた。4日目に何もないところに家が建つ。(家なんて)手に負えないと思っていたものが、横に数人いれば建つ。
何もないところに、ちょっとだけ手伝いをすれば何とかなる。私は消費者という人は、家を建てるときは、あなたまかせ感覚になる。大事なのは愛着。大工が建てれば愛着はあるが、ダメなところは大工に文句を言う。自分が建てると、ダメなところは飲み込める。
直接建てると安心感がある。安心感とは、内容が分かっている安心感。自分で直せない不安が文句にもなる。自分はできないと思っているができる。できることが暮らしに結びついて、つくるになる。
「お手は宝や」
指先は10万分の1ミリを感知できる能力がある。パソコンはクリックのみ。刃先をきれいに切れるか、切れないか、手で感じることができる。手に能力がついてくる。
仕事ができる手か、そうでないかは、手に能力がついてくることでもある。
昔住んでいたおばあちゃんが、発した言葉が「お手はお宝や」。手がなくては生活できず、藁仕事、保存食、・・・手作業がほとんど。手は宝とは、生活の中で生まれた言葉。自分でできることを、他人任せにできない。
いま多くの能力が削がれていく中で、自分の手を見てみて、この手で何かできるのか。なんか考えられるか。本には200も300も覚えることがあると書いてあるが、3つか4つ覚えれば、仕事には間があり、何とかなる。いっぺんに覚えてからスタートさせようとするのは無理。職人は「習うより慣れろ」である。自分のやってきた達成感が、自分を育てる。
もったいない。
「自由」は好き勝手なことではなくて、自由の由は「よりどころ」の意味である。自分のよりどころを持っているのが、自由ということだ。 よりどころは誰も教えてくれない。どっぽ村(の取り組み)もその一環。少なくとも自分がやれるという安心感が、人生にとって大きいのではないか。
雪が降ってダメなら、雪を楽しむ建て方もある、と考えるのは自分自身だ。
例えば、移動式の家。暑いときの寒いときも2m×3m、畳3枚半の家をいくつか建てて住み始めた。人が来ると、食べる人の分が必要になる。そこで食べ物をつくる。土・日のみも可能で、その間、農業や建築をやれば生きられる。
サラリーマンで年金をもらいながら、米を買ったほうが安い。が、なぜ、そんなことをやるかと言えば、人間の原理的に湧いて来るものだと思う。
「結い」
結いというのは、本来、金が発生せず、労力を提供しあうもの。大工の仕事は、モノが大きい。が、結いでやれば、10人集まれば家は建つ。昔は大工の下働きをし、大工より上手い人もいた。今では、建築のあり方も変わってきた。大工の仕事も変わった。
農業も、個人の田植えができ、結いがなくなったのではないか。
都会生活者に田舎の魅力があって、田舎に暮らしてみて、でも、都会の便利さに帰ってしまう。田舎のよさは自然だ。いちばん大事なところを不便だ、ダメだというのは、もったいない。
都会は本当に便利か。上から見ると、大きなビルがびっしり建った都会は墓場に見える。田舎はさんご礁のようにきれい。川が血流のようで生き物がいるかんじだ。田舎は田舎のよさをアピールする。自分たちの生活をそのまま見てもらえばいい。
風の人
余呉は駅前でも店は1軒もない。コンビニエンスストアもない。あるとき、よそから来た人が食べ物を売っている店はないかと訪ねてきた。店はないので、今朝炊いたご飯をおにぎりにしてあげた。すると、後日、おにぎりはハムになって帰ってきた。
よそから来ていいと思うのは、自然のみではない。自然は変化がある。その中でできることを探して、それをするのが風の人ではないか。余呉町でいいのは、自分の仕事がこんなにいいのに、なんでやめていくのか、と思う。で、若い人に、伝えていくのが「どっぽ村」である。
農村もまた同じ。山の奥には猫の額くらいの小さな田んぼがある。それでもないと食えない時代があった。今、環境問題を抱え、どこまで続くか。自分の持てる能力でやる方法がいちばん、いいのではないか。
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