講義抄録(2月):人・モノ・知恵を結んでつくるコミュニティ
見谷春美さん(有限会社見谷ナーセリー専務取締役、有限会社ファームビレッジさんさん副代表)
今日(2月14日)が誕生日で58歳になりました。開口一番、こう切り出されて始まった、見谷さんの講義は、越し方、看護士としての経験が、農と出会い、「食」=体=命を中心の事業に取り組まれることの基本となっていること。命を育むことの視点、科学的な理解の大切さを学ばせていただきました。
看護士となり、県立病院で外科系統を一貫してこらた見谷さんは、救急病棟での激務は「体が燃えるほど面白かった」とか。切断された足を運んだときの重さ、本人の意思によらず、生を伝える脈拍の鼓動、ぴくぴくと動く内臓、美しいピンクの諸機関・・・・。
農家へ嫁いで37年。看護士体験のおかげで百姓が務まっている、そうです。
農との出会いから
里山を持った農家で生まれ、川のせせらぎを聞き、薪拾い、スンバ拾いをし、春先の芽欠き、おやつは人よりいかに早く取って食べるかなどを、子どもの頃にやってきた。
農家と農業は、まるで様変わりした。夫が一匹狼でやっている専業農家に嫁いで、回りからは"なんで看護士やめるの"と言われた。かつては農業は、やれ農薬や、やれ肥料やと、ただひたすら収量を上げる私利私欲でやってきた。それが15~20年くらい前から、土をダメにし、虫もある種のものがいっぱいいて、朝ハウスに行くとキュウリがドロンと下がってそこにダンゴ虫がびっしりとついていて、......農薬やっても効かなくなった。
農薬はまず呼吸器系を攻撃して殺す。だから生きているものがすべて死ぬのかと思うと死なない。ナメクジは呼吸器があるのに、死なない。農薬をまくとじゃーっと小さくなって、しばらくすると水を吸って大きくなり生き返る。
呼吸器系を攻撃する薬が減ってきたら、次に成虫が卵を産まない農薬、種が芽を出さない除草剤と、緩慢な効き方だが、いずれ無くなるものになった―これは私たち人間の体に影響はないかと思っていると、それ以上に大変なことが起ってきた。
例えば遺伝子組み換え作物(GM)が、新しい命に影響してくる。農業と農家の様変わりが起こってきていた。それは、
①農業技術の様変わり、②流通の様変わり、③加工技術の様変わり、
の3点に起こってきた。これには、私たちの先代の時代までは受け継がれてきた、何千もの姿を私たちの時代でコロンと変えてしまった責任を強く感じた。
手間を省いて失ったもの
良い悪いは半々あるが、何が農業や流通をそこまで追いやったのか。技術は何でそんんなに変化するのか。
人間社会のいちばんの欠点は、(何も)しなくてすめば楽チン、5つの手間が3つですめばいい、というのが物事をややこしくしているのではないか。昔はポットン便所で、木の桶に屎尿を入れて、荷車で運び、ケモノ道をかついで歩かねばならなかった。そのとき、桶の"つめ"がきちんとしてないと、ちゃぽんちゃぽんと屎尿が跳ねるのが嫌で、「そんな百姓をしたいのか」と言われた。が、(屎尿は)作物にとっては最高のごちそうで、これをやったのとやらんのでは、出来が違う。やれば喜んで大きくなるという物事の営みを、おばあちゃんから教わった。
新しい農業は、適宜肥料を設計し、1輪車に積んで、スマートにできた。おばあちゃんのとは違う。"自動や""バルブで開けてやるんや"......と、自慢した。楽になったが、その分10本植えて10個取れたものを、40本植えて50個取りたいという挑戦を農業の世界でやってくると、悲鳴を上げるのは土である。堆肥を入れるのは省いて、窒素・リン酸・カリだけでは土は死んでいく。フワフワの土でなく、水溜りに粉が浮く状態で、微生物の中でも嫌気性のものが増えていく(病気にならない好気性細菌は生きられない)。土の中は悪菌がいっぱいでウィルス菌が繁殖していく。工程を省いたが、失うものが多い。
消費者はベコベコのトマトより、丸いのがいいので、曲がったものは摘果して、丸いのをつくる。赤いトマトが好きな消費者のために、農家では店に並んだときに真っ赤になるように、1円玉くらいちょこっと赤味がさしたのを出荷する。こういう農業を蹴って、選果場へ持っていくのをやめ、赤く熟したのを自分で選果して出すようになった。
体が喜ぶ食べ物を
かつて仲買いや八百屋の目を気にして出荷したのを、今では消費者の顔色を見て出荷するようになった。視点が違うところにエネルギーを使っていた。なんで違ったんだという意味は、私たちの体にある。毎日食べているが、口に持っていくのは限られている。いっぱいある中で、選択して口にまで持ってくる。
私たちが食べ物を選ぶ物差しとは。何で判断して食べるのだろうか。それは、おいしいやろ、とか、好き嫌い、食べたい食べたくない、を頭の中で考えて、判断して、口に持ってきているのではないか。
ところが、体の中は、私たちの思いで動いているのではない。呼吸数や体温、器官のぐちゃぐちゃ動くさま、きれいなピンク色など、心臓が、胃が、ひとりで動いている。ときには胃や腎臓の調子が悪いのに、自分の好きだけで食べている。なんでこんなもの落ちてきたのか(と調子の悪い臓器は思っている)と、少しでも考えて食べてやる勤しみが欲しい。体に食べ物を入れるのは自分なので、体のために気にして入れてやると、体は喜ぶのではないだろうか。消費者は自分の選ぶ農産物に関わっていいのではないかと思う。
変わる農村
昔の農家は、家庭の中でのしきたりを元に付き合い方などを定められた。囲炉裏に足を突っ込んだらいかんとか、川におしっこをしたらいかんとか。また、山に向かって行ったときに木に対してしゃべったり、季節の草花、例えば山椒が咲く、マンサクの花が咲く、ショウジョウバカマが咲いたとか、山が紅葉してきてなど、生活はそうした季節に準じてきた。ウツギが咲いたら田植えをとか、フジの蔓が絡まる前に下草刈りをしようとか、皆でやることで育ってきた。
村でリーダーシップを取る人、脇役の人、阿吽の呼吸で決まっていた。そうした村の中での協力体制が、今日ではまったく見られない。かつては地主や庄屋などのおおやけ衆、小作などのこやけ衆と、上下関係ができていた。庄屋→地主→小作と、神事も村のできごとなどの地域のことも、この序列に従って動いていた。
今では、土地を持っている人は請負で出すようになり、生活は農協に託し、農村の普及から家電品の購入まで、何でも農協を頼るようになった。欲しいものは、必要ではなく、男は見栄で買った。あとは担当者との繋がりや付き合いで買った。とうちゃんには、農協で買うと黙ってるけど、デパートで買うと怒られる。農協でまとまった組合員のすごい結びつきができていった。
(見谷さんは)農協の女性部に入って、そんな農協のあり方を見直したいと思った。
あぜみちの会
自分たちの農産物の意義を高めようと、平成3年、県内農家の仲間たちで、「ファームビレッジ・さんさん」の前身・母体となる「あぜみちの会」を作った。現在では消費者も入り、自由な会員組織として、福井県内外で約3000人の会員がいる。
最初は、生産者が有機栽培をやりたい、昔ながらの自然栽培をやりたいが手がかかる......と言いながらも、「あんな(化学)肥料使いたくない、土があかんようになるで」と取り組んだ。できたもの100のうち、20は直売で、80は農協から市場に出した。が、農協に出すと化学肥料を使ったものとまぜこぜになってしまうのが悔しかった。ところが、"どこかでそういうのを売ってる店があったら買いに行くわ"、という消費者の一声で、「ほんならやるか」と始めたのが、「ファームビレッジ・さんさん」(平成13年)だった。
店を出した頃、新潟で米粉パンができ、米粉パンなら会員の3分2は稲作農家だからいくらでも作れる。パンを米で作るなら小麦を輸入せんでもいい、となってすぐ研究して始めたのが、全国で3番目の米粉パン用の釜だった。
蔵には古々米が積んであり、(国の)猫の目政策に困っていた時代に、小麦はとても安く、膨らむ。が、米はグルテンを入れてやらねばならず、製品コストが高いのがネックだった。が、思い切って始めた。
再出発のコンセプトは「自然の形で口の中へ」
「さんさん」を立ち上げるにあたり、一人10万円で33名の出資者で始めることになった。が、計2000万円かかり、足りない分は県の農林水産助成金で3分の1の700万円を、残りを5人のコアメンバーからの出資と個人からの借り入れで1300万円を用意した。
開店して1、2年、毎月人件費をつぎ込まなければならなかった。店の前には(ショッピングセンターの)ワイプラザがあるという厳しい立地だった。そういうところで、曲がっても有機だから、虫が食ってても有機だから...では、形が良くてきれいな野菜で教育されている消費者を振り向かせられない。
3年目には借金が3桁(百万円単位)になり、コアメンバーたちにやめるか、続けるかの決断を迫って続けることにした。そのときに決断したのが、ワイプラザがやってないことをやる、ワイプラザの商品と「さんさん」のを食べ比べてもらう、そうしておいしさを分かってもらおうと、出直しを図った。
出直しに当たり、これまでの責任の所在が不明確な任意組織を、責任を明確にする有限会社にした。法人設立時に出資者から代表を決めるにあたり、男ばかりの中で女性の見谷さんに最初の代表への要請があり、代表(現在は副代表)となった。
金がない中で、すべて切り詰めて、その名にちなんで平成17年3月3日にオープンした。
バイキングにしたのは、みんなの食材を使って料理するには、旬の食材はど~んとあるので、いろんなメニューで出して、「ふんだんに食べてもらいましょう」を合い言葉にした。
調理は、化学調味料でなく、有機の調味料や出汁を使って、もう一度自然栽培のものをベロに戻すということで、店は「いちばん自然の形で口の中に入れる」をコンセプトに立ち上げた。
当時、福井ではバイキングはあかん、と言われたが、コンセプトを立ち上げたら、バイキングしかなかった。
文化性があればはずれない。「さんさん」は、農業の世界の文化をつくるか、守るか。何かが変わっていく中で、大切なものを作り上げていく、形作っていく課程になると思う。 食育と植育が循環していくことで、心身共に満たされていく、という確信を持っている。そういう考えで関わってものごとを考えていくと、答えが出てくるようだ。
第6期生募集中!
現在、第6期入学生を募集しています。
年間授業料は6万円(5回分)で、毎回受講料を払うより、1.5万円安くなります。また、入学生の方は、宿泊・食事の料金も優遇されます。
是非ご入学ください!
入学申込書と募集要項はこちら
日本農村力デザイン大学では、設立の趣旨に賛同しスポンサーとなっていただける企業・団体を募集しています。
■年会費 300,000円
<特典>
・受講生3名分の授業料免除
※入学金は別途申し受けます。
※その他の経費(宿泊/食事代等)は実費負担となります。
・大学の情報をお送りします。
