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講義抄録(2月):お客の立場に立って、町の賑わいを取り戻す

手づくり総菜「じんべい」林多恵子さん

 

バイキング食堂で十分"試食"を

昼食時間をややずらし、1時半に「じんべい」に集合。約40種はあるバイキング・メニューを各自思い思いに取り分け、十分にお腹が膨らんだところで、林さんのお話を伺った。

越前町織田(旧織田町)の「じんべい」さんは、剱神社前の商店街にある。かつて半分は饅頭屋さんを、半分は呉服屋さんを商っていたという林さんの実家を改装して、平成16年10月、祭りの賑わいの中、惣菜屋「じんべい」を開業した。東京で化粧品会社、レストランなどで仕事をされていたが、お母様が90歳近くなり、織田に転勤。

定年になって、自分のいちばん得意なこと、長いことしていたことなどを考え、いきついたのが料理であったという。自分だったらこんなことをしてくれたら嬉しい、という想いを基本に、総菜店を開業した。店名の「じんべい」は実家の屋号から。「ほかの名前をつけても地元では、じんべいの誰々で通るので」と。

少なくとも40品目は並ぶ惣菜を毎日、6~7割は林さん自身が早朝からつくる。自らを「住み込み店員」と称しながら年中無休、「ゴルフ場に行く気分で」取り掛かるそうだ。好きなゴルフを長年やってきたという林さんのユニフォームの決め手は、ゴルフのキャップ。スタッフの皆さんも、キャップをきちっとかぶり、若々しい活気があふれている。惣菜業が本命だが、食事時間は、バイキング方式の食堂として店内は大賑わいだ。というのは、デパ地下で買おうと思うと、味見してと言われる。で、気になるものを2,3種味見するといやな顔をされる。それなら、680円でいくらでも食べて試してもらおうと食堂にした。いろいろ食べて(味見して)、納得したら買ってもらう。その代わり残したら料金は倍いただく―がルールだ。

コミュニケーションを大切に

よく、儲かるの、大丈夫? と言われるが、開業して5年経たので、大丈夫でしょう。 料理は手づくりなので手間がかかる。でも、昔つくっていた懐かしい味に合わせていこうということで手づくりにした。

スタッフは9名いる。みな子や孫がいて、自分の時間はあるが、子や孫のための時間も必要。年金もらったりリッチな人ばかりなので、ガツガツしてないと言われる。(ゆとりあるリッチなスタッフの雰囲気は)店の表情にも出る。 私のように定年後くらいの歳で始めると成功するのではないか。

儲けよりコミュニケーションを大切にしている。自分が黙っていると声をかけてくれない。今ではみんなが声をかけてくれるので嬉しい。 自分の家では「おいしかったよ」とはなかなか言わない。が、ここの店に来て、お客になってくれると、みな言ってくれる。

正月のお節も始めて5年になるが、大野市や勝山市からも注文があり、100個でやめたいが、今年も250個つくった。重箱の数だけつくり、あとは重箱が足りなくて24個は断った。その重箱は金沢の業者がつくっているエコ重箱で、口コミのおかげで広がった。

来店客も全部口コミばかり。メディアに出ても、取材に来てくれるだけで、宣伝はいっさいしない。ポスターや写真もつくったりしない。これらのコストは材料に響くので。地元で出した冊子(『FLOM』2008年10月)の創刊号で取り上げてくれた。そのとき取り上げてくれたお節の写真があるくらい。

行列をつくるより町を見て

土日の混雑時の待ち客には、劔神社に行ったり、歴史館に行ったりしてきてもらい、席が空いたら携帯電話で呼ぶようにして、できるだけ町を見てもらうようにしている。客席はテーブルと座敷を合わせて30席ほど。行列をつくるより、ゆったりと散策してもらうというのも、林さんが子ども時代の賑わいを戻したいという願いに叶っている。

企業秘密はありませんので、何でも聞いてください、という気さくな語りかけに受講生から遠慮のない質問が次々と飛び出した。

 Q 町の賑わいを取り戻したいということだが。

私が子供の頃はものすごい賑わいで、それが楽しみだった。が、35年くらい東京にいて帰ってきたら、あまりの寂れようにびっくりした。神社前の商店がみんな辞めて勤め人になっていた。都会に住んでいると田舎のことがすごく大切。昔のような賑わいを取り戻すのが私の目標。店を出したら、お客さんが神社にお参りしてくれて、神主さんも喜んでくれる。

「じんべい」以外に集客する店がないので、あと2、3軒(集客できる店が)あると町も活性化するのではないか。お客によく紹介するのは温泉だが、第三セクターやっているので、欲が無く、赤字が出ても平気で活気がない。1軒だけで頑張っても賑わいは取り戻せない。

Q 店を大きくするとか、数を増やすなどの"成長"を考えていますか?

身の丈に合ったものでなくてはだめ。武生や福井市に出しても、みんなが来てくれない。家賃もいらないここ(自宅)がいい。

Q スタッフは何人? 食材の調達は?

スタート時のスタッフがそのままで、2人増えただけ。現在は9名のスタッフでやっている。抜けた人はいない。町のシルバー人材センターの人材で始めた。給与に5%の手数料がいるので、月にだいたい3~4万円を町にお金を落としている。成功したのは、人材に恵まれたこと。 食材の調達は、夏は2反歩(自前の畑で)つくって間に合う。冬は鯖江市の青果店が市場で競り落したものを購入。また、インターネットで問屋が250社ほど集まっている会員制のネットワークがあり、そこで販売している商品を見て、自分のところであったニシンなどの材料を注文する。

Q 食材は地元にこだわっているのか。

地元のものがいいと思ってはいない。それより旬のものをより早く食べさせてあげたい。例えば、ナスは高知産のものを使ったり、ゴーヤは沖縄のものを使うなど、インターネットで注文すればなんでもとれる。年間6万円の会費を払って合うかどうか別だが。

Q 味付けは?

私(林さん)個人の味付けかも。私自身がいろいろ食べた経験を活かしている。―東京で仕事をしていた林さんは、醤油はキッコーマンしか使わなかったが、スタッフから、福井でやるなら町民は土地の醤油に慣れていると言う意見があり、スパッと切り替えて農協で売っている醤油に代えた。関東の醤油は福井に比べて辛い、のでと―。

Q 残った商品はどうしているのか。どのくらい残るのか?

だいたい完売するが、残った場合は、従業員に惜しげなくあげる。揚げ物などはフライヤーでいつでもできるので、お客の顔を見て揚げたり、注文を聞いてその都度揚げたりしている。

お客が得をしたと思えるように

Q 営業時間は?

朝は10時から、夜は7時までだが、早く行かないとなくなるというので、お客は早くから来る。10時半にはランチのお客が入っている。遅れて来ると品物がなくなってくるので。

1日多い日で200人。平日だと120~130人。地元の人はおかずを買いに夕方や朝来られる。昼はだいたい車で1時間から1時間半かかる福井市、敦賀市、勝山などから来られる方が多い。マスコミで取り上げられたから。来たお客からはご自身のブログで宣伝してくれる。検索してみたら、自分の店がずらっと出てきて驚いた。単なる口コミだけではこんなに広がらないだろう。

県内情報誌『うらら』に載るので、若い人も多い。メニューは、初めて食べたという人はいないが、久しぶりに食べたという人は多い。ビールの売り上げはものすごく少ない。最初はビールは置かなかったが、 "食前酒"にビールをという人が多く、食事を(食卓に)置いておいて近くの店に買いに行く人が少なくないため、置いた。酒は総菜屋なので置いてない。

(40品目もつくって、食べ放題では)数字をはじくと合わないが、ここで食べてもらうというより、惣菜を売る店なので、総菜が売れればいい。買った人からクレームを受けるのが嫌なので、食べてもらえば嫌なら買わない。だからいろいろお試ししてもらって、納得して買ってもらうにはバイキングがいい。食べてみて、よかったら買ってください、ということで、魚に撒き餌をやるのと一緒。自分の食べる分を自分で取り分けるから、ご飯もおかずも残さないのがいいところだ。セットを組んで出すと、気に入らなければ1品は残すかもしれない。好きなものを取ってるから文句もない。お客が得をしたと思ってくださらないと来ていただけない。

競争相手は自分、自分に負けないこと

資金は最低でも設備投資の半分は自分で持たなくてはだめ。あとは産業支援や商工会を頼ってもいい。自宅を改装するにしても、直接1級建築士に来てやってもらえば金がかかるが、県を頼ればその負担はない。売り上げゼロでも6ヶ月は持ちこたえなくてはだめ。 男性ができるなら女性でもできる。若い人ができて、年寄りができないことはない。

お客さまに、おいしかったよ、とか、車代をかけても来てよかった、と言ってもらえたとき。店を始めた冥利に尽きる。またやろうと頑張れる。 いつも自分が出すものを客の立場で考えて、これくらいなら惜しげもなく出せる。値段もこれくらいなら満足ということでやっている。

Q 今後の目標は? 継続の秘訣は?

店を大きくしたり、店舗を増やすことは考えていない。現状維持。規模を大きくするだけの材料がない。送ってくれと言われるので、インターネットで販売をしたい。柏崎市の奥さんが頑張って、インターネットで1億3千万円くらいの売り上げをしたが、私もまだ挑戦する道があるかなと思い挑戦してみたいが、日々の仕込みに追われて現在はできない。

継続するには自分に負けないこと。競争相手は自分しかいない。自分に勝つのはすごく難しい。勇気を振り絞って、例えば、朝何時に起きると決めたら、決めたことを守る。睡眠はだいたい4,5時間だが爆睡するので十分です。

文責・伊藤

日時: 2009年3月 2日 00:43
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